彼は私の足元で [小話(こばなし)]

私が生まれてから地球は太陽の回りを53回巡っている
秋から冬に向かう晴天の中、私は立っている
名前をつけるのが好きな人間は私のことをリンゴの木と呼ぶ
私の下で昼寝をしている人間が一人
彼の名はアイザック・ニュートン
おしゃべりな天使達によれば後に高名な科学者になるとの事
いじわるな悪魔達によると最後の錬金術師になるとの事
とりあえず何者かになる人間らしい
風がざわめき雲を運んでくるようだ
もうじき雨が降るのが私にはわかる
昼寝でカゼをひかせるのも何か嫌なので
私は彼の頭の上にリンゴを一個落としてやった
リンゴは彼の頭に命中、虹色の閃光が走り彼は猛然と起き上がった
何かが起こったのが判ったがそれが何かは私には判らない
後日、彼は「リンゴが落ちるのを見て」と吹聴したが
それが嘘なのを知っているのは私と彼だけである

私は彼の頭の上にリンゴを落とす為に生まれたのか?
私としては異論を唱えたいが実際の所はわからない
世にも稀な出来事に出くわしたのは確かで
嬉しかったのかその年の年輪はちょっと太い
その事を控えめに自慢しながら私は地球の上に立っている。


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