「ボート」

ここに湖を一つ置きます。
人造のダム湖です。
昨今のダムは、人の住まない山奥に作られる場合もありますが、
湖底に沈んだ村落がある、そんなダム湖です。

そこに、ボートが一つ浮かんでいます。
ごく普通の手漕ぎボートです。
ボートには、若い男女が乗っています。
向かい合う形ではなく、並んで座って、
それぞれが手にオールを持って２人で漕いでいる。
女の方が非力なので、ボートは直進はせず、ゆるい円弧が湖面に描かれています。
彼らの近くで黒い物体が湖に飛び込みます。川鵜です。
驚いた２人は、小さく飛沫の上がった湖面を凝視します。
しばらくして、３０ｍほど向こうから川鵜がぽこりと水面に現れます。
すでにこの時、鵜は数匹の魚を胃袋に収めていてます。
２人はそれに気づきません、感嘆の声を上げている。

いつか漕ぐのをやめて、緩い流れにボートをまかせている。
女が静かに歌いだし、
男はそれを聞いている。
緩い流れは橋の影にさしかかっている。
湖にかかる橋で２車線の県道が通っている。
橋の下を通り抜ける時、男は軽くキスをする。
歌は、しばらくとまったあと、
また聞こえ始める。今度は男も一緒です。

ここで時間を１００年戻します
場所は同じ場所とします
ダム湖が作られる前に、住んでいた村人が空を見上げています。
彼は未来を見る目を持っている、だが本人にその自覚がない、
これは幻だと思いながら見ている。
宙に浮かぶボートの底と、多くの魚たちを低い空に見ている。
村人の真横を通り過ぎる魚もいる。
村人は、上機嫌でボートの２人に合わせて鼻歌を歌います。
１００年先の流行歌だということを、村人は知りません。
何も知らない小鳥達が、村人が奏でる珍しいメロディに聞き入ります。


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この書き方はなんか楽

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